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冴えない彼女の育てかた9 イベント追加パッチ(霞ヶ丘詩羽編)

「詩羽先輩、開けますよ?」

『きゃぁぁぁぁ~、何見てんのよこのすけべ~』

「……迫真の演技をする気がないならいちいち反応しなくてもいいですから」

詩羽先輩の、気の抜けまくった、悲鳴にもなっていない返事にこちらもおざなりな反応を返しつつ、俺は扉を開けて洗面所の中に入る。

まぁそれでも、そこからすりガラスの扉一枚隔てた浴室の中からはシャワーの流れる音が響いている訳で、いやがおうにも中にいるひとの今の姿を思い起こしてしまったり。

「とりあえず、濡れた服だけ先に乾かしますよ? いいですね?」

が、今はそんな風に想像の翼をはためかせている場合ではなく、俺は取り急ぎ洗濯籠の中にある、脱ぎたての……いやそこは強調しなくていいけど、雨に濡れた彼女の衣類を乾燥機に放り込む。

上着もスカートも、かなりの量の水を吸ってぐっしょりと重く両手にのしかかり、彼女のさっきまでの冷たさと辛さが身に染みる。

それはそうと、そうして上着類を乾燥機に放り込んだ後は、残りの、それほど濡れていない衣類の扱いをどうしようかと少しの迷いが生じる訳で……

『下着ならそのまま記念に持っていっても構わないわよ倫理君』

「しませんからそういう倫理君じゃなくなっちゃうこと絶対しませんから俺!」

というか、このぐっしょりと濡れたストッキングの扱いどうしよう……

「まだ寒いですか? なんならシャワーだけでなく風呂も沸かしましょうか?」

ガランガランとやかましい音を立てて回る乾燥機を見つめつつ、俺は扉一枚隔てた浴室の中にいる彼女に話しかける。

『お湯が熱い……』

「そこは自分で温度調節してください」

『あぁ、なんだか人肌の温もりが恋しいわ』

「風呂上がりにぬる燗でもつけときますか」

まぁラノベ的にも大学生の飲酒くらいならOKだろう。アニメだとNGだけど。

『相変わらず意地悪なのね……』

「いやさっきから答えに窮する質問を畳みかけてくる詩羽先輩の方が意地悪でしょ」

何度も言うようだけど、大学生になってからの詩羽先輩は、本当にもう、まるで自重しないというか、下ネタという概念しか存在しない退廃的な世界というか……

『でも私たち、一度は体を重ねた間柄なのに……』

「そんなに重ねてないよねごく一部だよね!?」

ほら、こんなふうに。

『あの時の感触、今でもはっきりと覚えているわ……倫理君の熱くたぎった〝それ〟が、私の口中を激しくかき回し、だから私は立っていられないくらいの刺激に膝ががくがくと震え、そして、肝心の〝その部分〟は……』

「ちょっとちょっとちょっと! 事実と違ったり誇大な表現だったり紛らわしかったりする指示語使わないでよ!」

『でも……一部を重ねたのは、本当のことよね?』

「いや、それは……………………はい」

最近の詩羽先輩は、本当にもう、なんだかなぁ、だけど。

けれどそれは、高校を卒業したからとか、大学生になったからというだけではないのかもしれなくて。

『キス、しちゃったわよね? 私たち』

「……………………まぁ、はい」

『ふふっ、ふふふっ』

「やっぱり詩羽先輩の方が意地悪だ……」

なんか、こういうのはおこがましいってわかってるけど……

その浮かれ具合に、ほんのちょっとくらいは、〝あのこと〟が絡んでいるのかもしれなくて。

「ああ、あと、ここにバスタオルと着替え置いときますから……俺のスウェットですけど、この際仕方ないですよね?」

『もちろん上下揃いとか野暮なことしないわよね? しれっと上だけ置いてあるパターンよね?』

「もちろん上下揃えてますから俺は形式を重んじる人間ですから!」

ま、そんな胸が少し高鳴りそうな考察をあっさりぶち壊してくれる相変わらずの下ネタ攻撃に、俺は頭を抱えつつもほっとしながら、そろそろ、この楽しい場を後にしようと、洗面所の扉を開く。

「それじゃ、ごゆっくり」

『あら、もう話し相手になってくれないの?』

「色々と用意があるんですよ」

『用意って……ベッドメイキングとか、枕の下に〝あるもの〟を仕込むとか?』

「おにぎりメイキングとか、味噌汁の中に〝ある薬味〟を仕込むためです!」

最後に、きっちり閉めたとわかるように大きな音で扉を閉じると、俺は自分の部屋へとは戻らず、台所の方へと足を運ぶ。

冷蔵庫を開け、昨日の残りの冷やご飯を取り出すとレンジに放り込む。

テーブルの上に塩とラップとお皿とお椀とインスタント味噌汁を並べる。

さらにもう一度冷蔵庫を開け、佃煮とかネギとか、具や薬味になりそうなものをいくつか取り出す。

「それじゃ……腕を振るいますか~」

と、俺は、自分でも意外なくらいのモチベーションとともにキッチンに立ち、料理とも言えないおままごとに全力を傾けるべく気合いを入れる。

まぁ、加藤みたいにしっかりとしたものが作れる訳じゃないけど。

でも、ざっかけない男の料理、振る舞いたいくらいには、大切なお客様だから……

「り~ん~り~く~ん」

「うわあああっ!?」

と、気合いを入れた瞬間、突然耳元に響く、地獄の釜が開いたような怨嗟の声……

「コンディショナー、途中で切れちゃった~」

そして振り向くと、目の前に長い濡れ髪で顔を覆った貞……いや謎の女性。

「洗面所から呼んでくれればいいじゃん! あとこっち来るなら体拭いてからにして欲しかったというか! あ、いや、それより何か着てぇぇぇぇ~!?」

というわけで、俺の大切なお客様は、俺の男の料理だけでなく、男の拭き掃除も見せろとおっしゃったとか。

……あ、もちろん男の度胸の方は見せなかったけど。

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